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俺は泳ぐのは好きだ。
歩いたり走ったり、飛んだり跳ねたりするのと同じくらいに。
だから良い海、良い湖、良い川というものを調べることも多い、この日も1つ、川と見れば遡って
スポット探しに興じていたときのことだった。
というか、海に行けないフラストレーションを発散していたときのことだった。
見つけた泉で意気揚々と(といって、森の奥にある泉には景観として敵わない感じだったのであまり来ることも無さそうだったが)泳いでいると、コールさんがやってきた。
コールさんとゆっくり話すのは、殆ど去年のハロウィン以来の気もするが、お互い同業者の事は覚えているものだ。
ゆっくり話すことが無いとしても、街中で気にすることはある。
冒険者同士の情報交換と言うのは大事だ。
このときも、コールさんから最近の街の様子を教えて貰ったのだが
「禁術好きの魔導師」とか「街を襲いたがっている堕天使」が街を騒がせているらしい。
(他にも近くクラーケン退治をやるとか。うん?前にも居たな、クラーケン)
話す様子から、街全体をと言うよりは一部で起こっている事だとは分かるものの、中々面白そうなことが起こっているようだった。
俺は半分くらい、関われない嫉妬から、依頼を請けているのか?とコールさんに聞いた。
答えとしてはイエスだったものの、コールさんは当事者と言うよりはあくまで「依頼人から雇われた何でも屋」という立ち位置を守っているようだった。
それに対して、最初は冒険者として「依頼を請ける者として」のあり方について意見を交わしていたが……
コールさんも依頼人や当事者達の気持ちを大切にしたいと思うものの、自分を持て余してしまうこともあると言う。
俺はそれについて「勿体無い」と言いはしたが、もしかするとコールさんも今の立ち位置は目指している途中なのかも知れない。
自分を出さず他人の気持ちを尊重することと、単に任務を遂行することは違う。
コールさんの目指しているものは熟達した経験によって成し得るものだろう。
持て余してしまうのも、勿体無いと思われるのも、まだそれを目指している段階だからだろう。
だから今は、コールさんに良い機会が訪れることを祈る。
そして良い機会があれば……と思うということは、可能性を感じているということだ。
経験によって、どんな冒険者(何でも屋?)となるのか予想が難しく、俺にとって非常に興味深い人だ。
そういう意味で魅力的であり、良い男だ。
それに、ぶつぶつと持論を展開する面倒な奴の話……というか考え方の違う相手の話をあのくらい自然に聞けるというのは、それだけで良い男だと思うし。
此処のトコロ野外で活動することが特に多く、夏場に外套としているケープを枝に引っ掛けてしまっていた。
そこで、ペティット近郊にあるという仕立屋に繕いをしてもらおうとやってきた。
時間が時間だったので、物と代金を置いて行こうと思っていたのだが、幸運なことに店主が居て。
店主はノルンというエルフで、店は趣味の延長でやっていると言った。
俺は街に行かずに過ごしていたため、お金に変える前の品で代金を払おうとして交渉、最終的に妖精の花園で手に入れた妖精さん用の防止で決着をした。
という商談をしていると、ラゼットがやってきた。
ノルンさんにお菓子を買ってきたようだったが、俺を探していたという。
賞金か?イェンスさんに協力しているのか?と最初は思ったが、ミツキ、アウロラさん、ホフマンに協力を頼んでいるとラゼットが言ったことで、その疑惑は消え去った。
俺を危険だと思っているのなら、ミツキやアウロラさん、ノルンさんに協力を頼んだり、ましてや協力してくれていることを告げたりはしない。
というか、ラゼット自身は俺のことをギリギリ疑っていたようで、それを告げることでカマを掛けていた節はあるが、掛かるものを持っていなかった。
ラゼットが俺を探していた理由はイェンスさんの情報を得る為だったようだ。
傍らに連れていた猫獣人の子と何か関係がありそうではあったが、ヘラジカの角亭で話をすることを約束してこの場は別れた。
幾ら協力者と言っても、此処でする話ではない。
3日後、店へケープを受け取りに行ったが、見違えるように修繕されていた。
修繕どころか、何をどうしたのか様々なことが施されているのを感じる、種々の耐性を加えてくれ
おまけにいい香りのするアップリケまで付けてくれたようだ。
帽子の代金分の仕事としては実に値段以上であったと言える、まさか、装飾品としてではなく
装備品として改良を加えて貰えるとは夢にも思っておらず、着られるようにしてくれればと思って頼んだことだ。
恐らく、客を冒険者だと見て、してくれたことだろう。
良い職人であることは間違いがなかった。
森を歩いていると、ネージュの姿を見つけた。
ネージュは遠く旅に出ていて、会うのは1年ぶりのことだ。
このときネージュは弓の練習をしていて、それも、だいぶ集中しているようだったから、俺はそれを少しの間見ていた。
1射目を少し外してしまった後、2射目に中々向かえないでいる姿を見ていると、こちらまで緊張をして
つい「落ち着いて」と言葉が漏れてしまった。
小さな声だったのだが、ネージュは集中していて感覚が研ぎ澄まされていたのだろう、「どうすれば落ち着けるのか」と、此方を振り向かないままで。
この集中を乱してしまうのが怖かったのだが、俺は口を開くことが出来た。
そして、ネージュが静かに頷き、放った矢が的を射て世界に音が戻るまでの間
俺は自分がこの場に居ることすら不思議な気持ちだった。
ときどきこのように、はっとさせられる瞬間がある。
普段からは想像も出来ないような、強く美しい一面。
これは旅をしてきたからというだけのものでは無いだろう。
広場だったら、らんらららんらら小躍りしてぐるぐる回っていたかも知れないが、こういった再会だったため、お互い緊張から解き放たれて「あ~良かった」と安堵したタイミングでの挨拶となった。
久しぶりに会うネージュは、(先程のこともあり)一回りたくましくなったように思えた。
以前までの、広い世界を夢見て旅立ったばかりのお嬢さんというイメージは徐々に覆されつつある。
しかし、その現実的でないイメージは、実際、俺にとっては好ましいものだった。
その"甘さ"は、俺が好きなものであり、実に苦しめられているものでもあるからだ。
だから、その甘さを見ていたいとも思っていたのだ、それを残したまま変わっていくのか、切り捨てるのか、興味のあることだ。
そしてその変化の一端か、弓の練習を「もっと頑張る」と言う。
理由に特別なものは無いというが、旅の中で様々なことをもっと頑張らなければ、と思ったそうだ。
きっとそれは現実的なことであり、大人になろうとしているのかも知れない。
変わっていないところも勿論あった。
素直に人を尊敬することが出来るというか、世辞でなく、狡猾なところも感じられないもの。
他人のことを良いように捉えられる、とでも表現するのが良いのか、上手い言葉が見つからないが。
それを言葉にして相手に伝える、日常的に行うということは、俺は中々大変なことのように思える。
何しろ相手を褒めたところで、俺のようなひねくれ者からは「そんな事はない」と否定されることも多いからだ。
(ここで謙遜をするのは桜花的な精神とよく言われるが、港町であるペティットではまま見られる)
最初から口にしなければ、自分が傷つくこともない。
返報性の原理から言って、相手を良く言う方が自分の得になるし、良く言われたときも否定するよりは感謝した方が得になる。
そうだと分かっていても、中々出来ることではない。
悪い点を見て生きるよりも、良い所を見て生きる方が善いと思っている人間にしか出来ないことなのかも知れない。
他、旅の間の話……は、あまり時間がなく出来なかったが、旅の間に交換した物の話をした。
ネージュから貰った「魔法の雫」を俺が勿体ぶっていて中々飲めないでいる話だとか、俺がミカちゃんから貰って贈った簪のことだとか。
簪について、俺が「近くに居ない相手との繋がり」として贈ったものだから
「旅に出て行かなかったら他の人に贈ったか」とネージュは言った。
(ミカちゃんのセンスが余程良かったのだろう、貰えなかったとしたら残念だというくらい良いものだとは思わなかった。さすが女心が分かっているということなのだろうか)
答えは恐らくイエスだったろう。
勿論、同じ街にいる相手なら手紙や物を送らずとも会いに行けば良いのだし、それに
女の子に対して身に付ける物を贈るのはレベルが高いとは良く聞いたものだ
街から離れていたからこそ、顔もリアクションも見えないし、えーい、贈ってしまえ!と思うことが出来たのも大きな要因だったからだ。
ただいまが聞けて良かったし、おかえりと言えて良かった。
だが、このことで俺は前にも増してネージュの旅の理由が気にかかるようになった。
妖精の花園に迷い込んだ日のこと。
妖精たちのお茶会に招かれ(巻き込まれ?)た後、飽きっぽいタイプだった妖精たちは片付けもそこそこに他の場所に言ってしまったので、これ幸いとその場でうたた寝をしていた。
追われている身だと思えばおいそれと昼寝も出来ない日が多く、此処、妖精の花園のように来ること自体が困難な場所というのは、今の俺にとっては絶好の休息場所となった。
うたた寝しながら、久しぶりに過去のことなど夢に見ていたとき……同じく迷い込んだらしい蛇獣人のエリュテイアさんがやってきて、少し話をし、共に妖精の花園を出た。
不思議な眼をしていて、ゆっくり喋る。
純白の髪と白い肌に包まれた赤い瞳はアルビノらしい特徴ではあるが、エリュテイアさんの眼にはそれに留まらない印象を受ける。
そこに"視線"というものがあると、肌で感じられるような。
エリュテイアさんに見られていると、ムズムズと落ち着かない気持ちがするものだ。
魔法なのかとも思ったのだが、獣人だと言う、そういった特徴のあるものか。
折角、お茶会の後が片付けも為されずに残っていたので、そのままお茶を振る舞うことにした
といって、僕が用意したものでなければ、残っているものを漁った結果はただの水、風情どころかお茶すらなかったのだが……エリュテイアさんはよく嫌な顔ひとつせずに付き合ってくれたものだ。
(強い渋みも、強い甘みも苦手だという。これも種族柄か。此処のトコロ食の違う獣人と続けて会って興味深いことだ)
普段は狩人をしており、獲物の少ない季節には冒険者をして生計を立てているという。
そしてこの時期(夏いっぱいと言っていた)は冒険者をしている季節だからか、俺がイェンスさんに賞金を掛けられていることも知っていた。
掛けられた額が小さいこと、イェンスさんが俺を悪人に仕立て上げていないこと……正直なところ、本気で俺を消してやろうとか、そういったつもりでは無いのだろう。
だからこうして、知っている人の殆どはこのように接してくれる。
必要以上にビクビクする必要も無いのだが、もしイェンスさんの前に出て行ったとして
俺はきっと、次はこの程度では済まないことをするに違いなかった。
だからいっそのことピンチをチャンスに変えようと思ってはいたが、中々手を打てずに居た。
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