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我ながら、馬鹿なことをした。
半端者だ。
俺は気が立っていた。
ファルベリアのこと、最近ペティットにいたビーバーのこと。
それに昔のことも思い出した。
力が無ければ、他社に良いようにされるだけなんだと、やさぐれていた。
どうにかしたかったけど、それだけの力が無かった。
普段は割り切ったり、忘れていることだけれど、不意にであったり切っ掛けがあって思い出すと、こういう気持ちになる。
この日は悪い奴が、悪そうな取引に向かうところだったのでつけていた。
そうしたら、その「悪そうな取引」と言うのが、イェンスさんが取り仕切る奴隷の売買だった。
"奴隷の売買"と言って。
それは普段想像するようなものと違い、見切り品の野菜を叩き売るが如しだった。
人を人とも思わないどころか、物とも思わないような、おぞましい光景だ。
俺も最初は普段想像するようなものと思っていたから、「今直ぐ死ぬ訳でなし、奴隷を買う奴を懲らしめていくか」と悠長に構えていた。
俺は自分の力の無さから、「誰が一番悪いのか?」と考えていた。
1.奴隷を捕まえる者
2.奴隷を売る者
3.奴隷を買う者
1.はゴロツキである事が多い、「言われたからやっている」者が殆どだ、恐喝をしろと言われれば恐喝を、薬を売れと言われれば薬を売るような奴らだ。代わりは幾らでも居る。
2.はイェンスさんのような者だ。「儲かるからやっている」者が多い。奴隷が儲かれば奴隷を、薬が儲かれば薬を売る。儲けたい奴は他に幾らでも居る。
3.こいつらだけは「奴隷が欲しいから買う」。こいつらが一番悪い。替えもそう多くない。
だから、自分一人に出来ることで、一番効果的なことをしようと思った。
が、思っただけ。
イェンスさんが奴隷の一人を射的の的にし始めたところで、俺は姿を見せることに決めた。
目の前の"致命的"を見逃すのは趣味じゃなかった、出て行って、姿を見られることは俺にとって致命的なことではない、どうにか的でなくするくらいの事は出来るだろう、リスクは増えるが、その後で奴隷を買う者を……。
と、これも思っただけになった。
自称”神”…
自称”冷やかしに来ただけの年寄り”…
得が無ければ動かないというイヴァン…
俺が、今この時、この場でやっていることを、売られゆこうという奴隷達はどういう気持ちで見るだろう。
世界には神も居なければ、クズみたいな人間しか居ないと思うだろう。
良いように扱われゆく自分を助ける者なんて何処にも居ないと、絶望にすら慣れてしまったような心で思うだろう。
自分がこの人達と同じ立場だったとしたら、何もしない俺のことも、奴隷商人達と同じように恨むだろう。
そう思ったとき、俺はイェンスさんを人質に取っていた。
此処で行動することの出来る人間が、俺は好きなんだ。
それなのに、どうしてそういった人達に顔向けできないような事をするだろうか。
けれど、この"強盗"は失敗した。
そもそもこの人数相手に、一人でやるものじゃないのは確かだったが、奴隷商人でもなく、奴隷を買いに来たのでもない、観客の協力を得られなかった。
(観客はイェンスさんの命などどうでもいい)
俺のやり方が不味かったのだが、俺はムカついていた、俺自身にも、この状況で平然と、ただ見ているだけの奴にも。
トランクという名前の女の人(イェンスさんの荷馬車に乗っていた人だ)、年寄りの使い魔……動くなって言うのに、動くから、俺が無抵抗の人間なんて撃てやしないことがバレてしまった。
逃げることが出来たのは不幸中の幸いだが、誰一人助けることは出来なかった。
金を出せば一人くらい買えただろう、奴隷を買って帰る途中の者を襲撃すれば数人助けられただろう。
けど、俺の取った行動で助けられた数はゼロだ。
もう少し深く入り込んで、奴隷商としての証拠を掴もうと思っていたイェンスさんにも、これで狙いがバレてしまったことだろう。
もう依頼して貰えないどころか、俺を排除しにかかるだろう。
力……。
六花の神殿で、エフブンノイチユラギの魔力によって眠りに落ちた俺は、目が覚めたときに2人の人物に出会った。
オデットさんと、イヴァンという黒尽くめの男だ。
色味がとても対照的だったのをよく覚えている。2人は顔見知り程度には知り合いだと言っていた。
オデットさんとは久しぶりに会うが、なんとなし、目立つレインさんの近くに居るものだから話に聞くことは多い。
普段から淡々とした調子であるし、ぶっきらぼうにも見える様子だが、実際に何にも興味が無かったり本当に他人を雑に扱っているようでもない。
俺の寄生虫のことを雑談の種にしたようでもなければ、少し興味を感じて、質問をしてみた。
雪や時計は好きなのかと。
別に「何か好きなことはある?」と聞いてるようなものなんだが、たまたま此処が六花の神殿で、オデットさんが懐中時計を持っていたからだ。クローズドクエスチョン。
そうしたら、雪がとても好きだというのと、時計を作る人というか、職人そのものに興味があると言う。
雪はま、なんというか、イメージ通りと言うのだろうか。
小麦色の肌をして「夏が好きです!」って言われた時と同じ感触だ、「なるほど」と答えるだろう。
暑いのは苦手らしいというのも、同じ。
だが、職人に興味があるというのは面白かった。
何かが作られていく過程が好き……偏見だが、女の子には珍しいように思う。
シアルフィーアさんと知り合いだと言うのもあるのかも知れないが、診療所で手伝いをするときも医術に興味があると言うし……なんというか、奥深そうな人だ、エルフの年季なのかも知れない。
(それなのに冒険に興味が無いなんて残念だ!!)
イヴァンさんとは冒険者仲間というか、ゴロツキ仲間というか、日雇い労働者仲間というかだ。
いかにも適当な様子で、チャラいのだが、なんとなく根の素直さのようなものを感じる。
普段は夜活動することが多いようで、夜行性だとか言われていた。
格好もコウモリっぽい。
だが、この日は「慣らしておこうと思って」昼間に活動していたところらしい。
何の為に慣らしているのかは教えてくれなかったが、妖精のお茶会のためではなかった。
(当てずっぽうだったが、当たらなかった)
しかも、夜活動していた頃の知り合いの多くとは縁を切ったと言う。
悪いうわさというか、黒い仕事をしているといいう話も聞く男だっただけに驚いた、本当にカタギに戻ったというのだろうか。
真偽はじきに分かるのだろうが……一体何があって、そうしようと思ったのだろう。
作戦会議と、フィリスト失脚と、ギトルーザさんの告白。
この件に関して、俺は語る舌を持たない。
色々と、細々と、ごたごたした事に巻き込まれ、満足の行く行動が出来なかった。
それは単に運が悪かったと言えることだが、非常に残念なことだった。
(PL:寝落ちしてしまって、本当にごめんなさい)
自警団の詰め所へと行った、一応、自警団の修練に冒険者として混ぜてもらう格好で行ったのだが、俺の目的はファルベリアに会うことだった。
狙って行ったとはいえ、この日は実に運がよく、ファルベリアと2人で話す時間が持てた。
(今ではヴァイスと呼ばれているらしい)
話してみた感触として、ファルベリアは実に少女らしい無邪気な可愛らしさがあるようだった。
それを知らなかったのもその筈か、俺はアカマガツのときのファルベリアしか知らなかったのだから。
例え自我があったとしても、あれだけ追い詰められた状況で、このように振る舞える訳も無い。
それにしたって、このような性質を持ちながらにして、今となってはあの事件の事を精神的に乗り越えているのだろかと思えば、驚愕するばかりだ。
あんなことがあれば、人なんて容易く歪んでしまうだろうに。
無関係の人を巻き込みながら元凶を倒すか。
或いは元凶が無関係の人を巻き込むことを分かっていながら、(自らが他人を手にかけたくないがために)自殺するか。
俺はどうしても納得出来ない。
そんな理不尽な二択を迫られて、自ら多くのことを背負う、勇気ある決断をした者が、その全てを背負うなどというのは……本当に正しいことなのかと。
だが、「後悔はない」と言うファルベリアの前では、無数の人の死を償うと決めたファルベリアの前では。
自分が厳しい状況に立たされているというのに、ファルベリアは、どうかすると、暢気な様子だった。
そりゃあ、アカマガツとして元凶を釣り出せるかどうか生きるか殺すか死ぬかというのを超えてきた者からすれば「まあ人を殺めるには殺めたし」なんて悟りの境地にも達してしまうのかも知れないが。
だが、現状は正しく認識しているようだし、ギルバートとも協力しているようだ。
当時の事件を知る団員であるザラメデスさんなりが居てくれれば心強いが……それでも、自警団内に味方が居て、かつそれが正義感の強いギルバートというのは頼もしいことだった。
それ以外にも、セシリアとは(2言しか交わしてないというが!)今でも厚い信頼関係で結ばれているようでもあり、非常に安心したことだった。
ともあれ、焦点はゼルサリスの剣、まずは自警団内を洗って、手掛かりを見つけたい。
ギガトールさんから貰った手紙に返事を出すのが非常に遅れてしまっていたので、教会の丘まで自分で届けに行った。
ギガトールさんがベリアにでこちゅーしていた気がするが、あの身長差だとギガトールさんは結構腰を折らねばならず、中々大変そうだった。(小学生並みの感想)
手紙の内容としては、アカマガツのこと……それもゼルサリスのことについて話を聞きたいということだった。
何故今になって?という疑問を抱いたが、どうやらファルベリアにとっての転機が再び訪れているようだ。
ファルベリアにとって有利な証拠を当時は集めきれなかったこともあり、俺は喜んでできる事をやるつもりで居た。
特に、ゼルサリスの所持していた「二本の剣」が問題となっているらしい。
俺はゼルサリスが討たれたところに居合わせはしたものの、怪我人が多くて剣のことを気にする余裕が無かったというのが実際のところだ。
「確かにそこに剣があった」という証言だけというのは、力及ばずと気落ちしてしまうが、それでも無いよりは良いことだ。
ギガトールさんは何を企んでいるやら、俺を交えて数人と食事会を催そうとしているようだった。
ファルベリアの処遇についての対策会議、ゼルサリスの剣の存在が自警団の何者かによって抹消され、ファルベリアにとって不利な状況にあるようだ。
俺の存在がキー?少し役が勝ちすぎているきらいはあるが。
同じくあの場に居たセシリアやエレナカレンは?と問うも、ギガトールさん曰く、セシリアはこの件に向かないしエレナカレンのことはよく知らないから、だそうだ。
確かにセシリアは大事な人のこととなると熱くなりやすいトコロはあるが、向かないという事も無いように思える、此処ぞという時は声を掛けようと思った。
困難に立ち向かう力がそこにはある。相手が周到に証拠を隠しているとするならば、苦境に立たされることもあるかも知れない、そんなときには、きっとその力が必要になる。
俺は理不尽なことが嫌いだ、それに晒されている者が居るならば何とかしてやりたい。
力不足を悔いたこともある相手だ、進んで協力させて貰おうと思う。
イェンスさんとは良い感じで仕事の話が進んだ、仕事を融通してくれるようになってきたし、実際の商売の実態に(イェンスさん側として)触れる日も近いだろう。
正面から行っても、通り一遍の逃げ道は用意してあるのだ、内からの道を探せれば良いが……深入りもいけないことだから、塩梅は難しい。
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