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合計で4,5回死んだような予選を潜り抜け、俺達「グリとグリ(元ヘーゼルローズ)」は決勝へと駒を進めていた。
今思えば、どれ一つ本当に勝利した試合は無かったかのような気さえする。
弱くて生きるのがつらい。
一段落着いたからという訳ではないけれど、俺はソレユ君に会いに行くことにした。
それは主と未だに再開する事の出来ぬ彼の為でも有り、俺自身の為でもあった。
しかし、何を於いてもソレユ君が無事であったことは大変な幸運であった。
馬車に残っていた荷物共々荒らされていなかったのは奇跡的と言ってもいい、其れ等を守っていたソレユ組んと、最初に見つけてくれたホフマン(本体じゃない方)は賞賛されて然るべきというものだ。
ネージュも泣いて喜ぶだろう。この御恩は一生忘れませんって奴だ、きっと。
俺は卑怯なやつだ。
動物は何も言わないで聞いてくれるから、「ソレユ君の為」とか言って弱音を吐きに来ていたのだ。
甘えてしまっている。
それでいて、ソレユ君はやはり俺を元気付けようとしてくれるのだから、主に似て優しい心の持ち主であることは疑いようもなかった。
そしてそれは彼に出来ることを彼なりにとやってくれるところも、どこか似ていて。
俺がそれに報いるのは第一に元気を出すことと、彼の蹄の音をshowroomに届けてやることだけだったが。
俺だって、治す魔法の才能があればと何度も願った。
けれど人の才は望むと望まざるとに関わらず振り分けられている。
もしかすればその内で、望みと才とが合致した者こそが一流と呼ばれるものになることができるのかも知れない。
俺の「望んだ」力は、Marchenによって引き剥がされた。
俺に「与えられた」力は、望みとまるきり正反対では無いにしても、こんなにもねじ曲がっている。
この大会に至るまで、俺がこの力を手にしなかったのは、見て見ぬふりをしてきたからだろう。
自らを閉ざして、演じて、認めてこなかった。
けれど今は此れこそが俺の"自然"なのだと分かる。
もし俺が治す力を得ようとしても、今の力の半分の成果も挙げられないだろう。
それは俺にとって"不自然"なことだからだ。
どれだけ捻れて居ても、此れが俺の持つ一番強い力なんだ。
水鳥のように、優勝を目指す。
ラゼットとのコンビネーションは楽に決まる、これが純粋な2対2であれば楽な戦いだったのではないかと思うくらいに。
けれどそう上手く行かないのが三つ巴と言うもので。
俺の秘密兵器やラゼットの瞬発力は決定打にならなければ後が苦しい、そして邪魔が入って決定打になりづらいのが三つ巴という奴だ。
正直なところ、いかに相打ち上等なMarchenに狙われないかという試合でもあり、応じてしまうタチのラゼットに狙われるなというのも中々難しい話だった。(目立つ鎧も付けていたのもあり)
それに俺にも、上記のような理想通りの戦いに徹することが出来ぬ理由があった。
サリアさんのことだ。
コールさんも、あの一戦だけではサリアさんのことをハッキリとは掴みきれなかったのだろう。
俺と同じ疑問を抱いているようだった。
『悪』に執着しているようだったと言った。『悪』を討たねばならぬ理由があったのでは無いかと。
けれど其れなら、ルインを差し置いてコールさんを討たんとした理由は何だ?
それはともすると、コールさんを試していたのかも知れない。コールさんを見定める為に敢えてそういう態度を取ることは考えられた。
そして何故、『悪』に討たれて満足することが出来る?
それはもしかすると、ClasHの2人が己の『正義』を上回ることを確認したからではないだろうかと俺は思った。
正義と悪との終わりのない戦いに於いて、己が討たれるに値すると感じたのかも知れないと。
自分が悪を討つように、いつかは討たれる定めであり、今がその時と感じたのだと。
対峙していたClasHの2人にとっても不可解であったサリアさんの様子に俺が説明を付けるとするならだ。
そして、死人に口無しと言うように、その真意を確かめることは既に出来ない。
だから俺は、この仮説に基づいて"弔い合戦"を行う。
もし、サリアさんが『悪』に討たれることに納得していたとしても、それでも正義の人が、悪が討たれぬことを望むはずもない。
正義がやはりまた悪を上回り得るとこの場で示す事こそが、そしてそれを大会が始まる前にサリアさんと交わしたルールの中で行うことが、俺の弔いだった。
(と、ClasHの2人を焚きつけることもまた目的であった。恐らくサリアさんがそうしていたように。)
コールさんは善悪で割り切れぬ人の想い、人の願いの為に戦う。それで良い、コールさんはコールさんの思いで、ルインはルインの思いで、俺は俺の思いで戦う。
其れこそがサリアさんの意志であったのではないかと思う、サリアさんが納得したのは『悪』に討たれることを許容したからではない。
きっと自分の生き方を曲げてしまったことへの責任を取ったのではないだろうか。
ClasHに対し、信念を違えるなと示していたのかも知れない。
※ただやっぱりルインは悪いやつだと思うからとっ捕まえた方が良いというのはラゼルティの総意だ。(主に良いところで俺にボウガンを発射しそれをラゼットが邪魔にならないように気を利かせて刺さってしまったから)
コールさんとの戦いは、最後まで相性が物を言った。
正面からのど付き合いも、俺が機先を制したことが決定的な要員だ。(コールさんは男らしく俺の拳と魔法を"受けて"しまった。)
俺はクロスカウンターなんてまっぴら御免の男らしくないヤツであり、コールさんを一方的にふっ飛ばしてやるつもりで行っていたのだから。
スタイルがコールさんにとって悪い意味で噛み合ってしまった。
"受けて流し"カウンターを決めるタイプのコールさんと、衝撃を"流させるも流させないも自在"という力を持つ俺が、真っ向勝負、お互いの"得意"をぶつけあってしまったから。
けれどコールさんは心底恐ろしい男だ。
ど付き合いを終えても闘志を激しく燃やし、ラゼットの追撃のクビカリウサギを掠らせ更に俺の追撃をすんでのところで交わした。
此れには舌を巻く、其処らの冒険者風情の動きでは到底無い、「何でも屋」(戦いが専門ではないという意味で)と侮って居たが、恐ろしく腕が立つと此処だけでもハッキリ分かるほどだ。
もし、この時点でコールさんと同じだけルインに闘志が残っていれば恐らく勝ち得なかっただろう。
何しろコールさんの"底"はまだ先があったからだ。
『満身創痍』コールさんの口にしていた言葉の意味を、俺達はその瞬間に理解した。
ラゼットのラスティエッジによって深い傷を負ったコールさんの身体能力が、飛躍的に向上したからだ。
試合も終盤というところで、瀕死の相手が急に強くなるのだから俺達にとって此れほど嫌なことは無かった。
初見、コールさんの仕掛けた爆発という邪魔が無ければ事態を把握する前に叩き斬られていたのかも知れない。
どうにかこうにか仕切り直しに漕ぎ着ける、長く続くものではないとコールさんは口にするが、凌いで勝つのは冗談じゃない。
体はどうしようもなく辛かったが、晴れやかな気持ちではあった。
ハッキリ言えば、胸踊り、興奮していただろう。
ラゼットとコールさんと同じステージで戦いたいという気持ちが俺を飛躍させていた。
そう感じていただけで、やはり傍から見れば俺の動きは3人の中で確実に最もトロかったのだろうけれど……俺の"認識"は追いつこうとしていた。
自分の体の動きのスピードを超えて、相手の動きを捉え、その先をイメージしようと。
それでも絶対的な速度の差は埋められずにコールさんの一撃をこの身に受けてしまう。
2人係でも、遂に捕まえることは出来なかった。
決まり手が「時間切れ」であったのは、涙が滲む悔しさがあった。(本当に負けてたら別の要素もあって泣けるが)
こんなものを魅せつけられてしまって、悔しくない訳がない。
敵わなかったと示されたようなものだ、喩え其れが一時的なものだから何だというのだろう、最高到達点が自分のずっと向こうにあると示されたことは、俺のクソみたいな自尊心をズタズタにするのに十分なものがあった。
(所詮何でも屋と侮っていただけに)
俺の認識のイメージが、別次元のスピードの端を捉え魔法を間に合わせることが出来た。
「顔を狙われなかったから」というのは甘えだ。
だが、「殺す気で行っていたら勝てていた」という考えのリスクは、俺も負ってきたことではあった。
巡ってきたのかも知れないとも思う、だから今はそれに甘え、カードを受け取った。
マリアさんと取り付けた試合の次は、コールさん達との試合だ。
予選期間ギリギリ、予選突破を賭けた試合だが……ロゼッタさんは来ていなかった。
一命こそ取り留めて、昨日意識を取り戻したものの、とても試合の出来る状態ではなかったからだ。
俺にしたって、そのような戦いの後であり陰鬱な気持ちであることは否定出来ない。
高い金を払って傷を癒やし、無理やり戦いの場に立っていた。
優勝する為だ。
俺に今できることはそれだけだった。
ギガトールさんの頼みを断ったのも、「自分のため」以外の理由を背負うことが出来なかったからだ。
もし誰かの頼みを請けた身となっていて、Marchenとの試合を勝ち抜くことが出来ただろうか。
幻滅されることが恐ろしかった。
しかしそうでなくとも今、此れだけ苦しいのだ、優勝を志した時点で右に行けど左に行けど地獄には変わりがなかった。
それでも優勝しなければ、この先一生苦しみ続けるだろうと、俺は感じていた。
ルードローズさんとラゼットが、ロゼッタさんの代わりをと申し出てくれた。
(ラゼットの組んだペアは解散したらしい。病院で良い感じだった気がしたのにな…。世の中色々ある。)
俺はClasHに試合を請けて貰う為にも3人で戦う訳には行かず、どちらかを選ぶ立場となったが……
気分屋のルードローズよりも明確に俺に加勢する理由のあるというラゼットに頼むことに決めた。
(後から思えば理由があるからこそ「見ていてくれ」と頼めば三つ巴になることを阻止できたかも知れないが、マリアさんまで来るなんて思わないじゃないか。つい一昨日、この2人と戦ったのだから。)
ロゼッタさんの見舞いに行ってくれたというラゼットが言うには、ロゼッタさんはMarchen戦での俺のことを責めるどころか「もしあのとき戦いを止めていたら怒っていただろう」と言っていたとのことだった。
それを聞いても俺は、ロゼッタさんの気持ちが分からなかった。
コールさんが遅れていることにより先に1人で来ていたルインさんは、不安なのか大会についての疑問を俺に投げかけてきた。
聞けば、ルインさんが大会に出場した理由は「特定のペアを決勝へと進ませるため」だと言う。
カードを稼ぎ、そのペアに流す……そういう手段はルール上認められているのだから何と思うことも無いにせよ、「誰と繋がっているのか」にはある程度興味があった。
大体想像は付くが。
今となっては大会に幾らか興味が出たのか、ClasHが優勝できそうであったり、もう少し興味が湧けば本格的に優勝を目指すかも知れないと言っていた。
しかし、大会に乗じて悪党が活動を始め、賞金首である自分を葬ろうとするのも危惧しているためカードは楽に集めたいと言うし……色々事情は複雑なようだ。
俺は借りていたカードを天道さんに返したかったし、加勢には報酬が必要だ。
そして何よりサリアさんの持っていたカードを取り返したかったので、カードを全て賭けようとルインさんに提案したが断られてしまった。
他のペアと結託しているのならそういう博打は出来ないだろうから仕方のないことだ。
請けて貰えなければどうしようもない。
「此れはサリアさんの弔い合戦だ」と言う俺に、ルインさんは「仇討ちなどするものじゃない」と言うが……仇討ちを受ける立場のルインさんが言うことだ、何か思うところはあるのだろうが、俺にはこれをする理由があった。
そして三つ巴の戦いが始まる。
つらい、戦いだった。
外見は炎を酸で焼かれたが、精神的には胃を火炙りにでもされているかと思ったほどだ。
正直なところ、二度とは戦いたくないタイプなのだ、この2人は。(一度も戦いたくなかったが)
恐らく割りにあっさりセシルアにカードが渡ったという噂も、2人揃っていなかったからに違いない。
無茶苦茶なんだ、もう、ドロドロだ。
そして必然、こうなってしまう。
彼女等にあるものと俺達にあるものは全然違うもので、それらは互いに代わりにはなれない。
戦士を相手にすれば、剣を折れば良い。
だが、それでは駄目なのだ。けれどルードローズに言ったように、俺には彼女等と同じものはない。
だからその代わりを俺の中から出さなければいけない。
それには時間が掛かった、とても。
俺はギリギリまで、表っ面で戦おうとしていたからだ。
戦士として立ち向かい、意思によって突き進み、希望によって切り拓こうとした。
それでは駄目なときだってあるのにも関わらず。
そのせいでロゼッタさんは、とんでもなく酷い怪我を負い、三角獣は、マリアさんに"喰われ"てしまった。
これらの力が、本当に俺の本心から出ていたのなら、また違った選択、違った結果だったのかも知れない。
若しくは、俺がもっともっと強ければ、上っ面を剥がされることだって無かったのかも知れない。
けれどそうでなかったから、この結末を招いてしまったのだろう。
俺は……。
俺の魔法は、自分が良ければそれでいいという願いの現れだと認めさせられた。
分かっては居た、自覚していた、けれどそれをこんなにも感じることになるなんて、思っても見なかった。
選択が、結果が示していた。
責められているように感じた。(恐らくそうではないのだが、俺は怖かった)
けれどそれを認めなければ、このとき、俺は自分の決断の責任を取れなかっただろう。
俺の決断は…。
俺はこの決断を、後悔せずに居られるだろうか。
川沿いの遊歩道で修練を積んでいたら、少女と幼女と出会った。
けれどその少女は魔王だったし、幼女は煉獄のナントカカントカだった。
天道さんは、魔法の強化が追いつかないと零した俺に、(魔法の強化を)手伝おうか?と申し出てくれた。
カードは何というか、戦略的(簡便に過ぎる)な意味で貰ったものではあったが、手を貸してもらうというのは不本意であった。
俺はどうにか自分の力で勝ちたいというのもあったし、戦う予定の相手が他のペアの力を借りなければならないような手を使ってくるとも知れていなかったからだ。
それに、俺が他者の直接的な支援で乗り切りましたじゃあ、光もクソも無い。
望むのは完全な、何一つ憚ることのない優勝だ。
天道さんが此のように申し出てくれること自体は嬉しく有り難い、それが餌をやった動物に僅かばかりの愛着が湧いたようなものだったとしても。
だから俺はきっと、貰ったカードを返すと約束した。
(だが「龍翔氷ノ羽音(仮)」は俺がカードを返却せずとも決勝へ進出出来たし、俺は俺で余剰カードの換金で手に入るお金がとっても必要だったので、返すことは可能だった、で満足した。)
サリアさんが命を落とした『Clash』との戦いのことを聞くことが出来た。
納得した様子だったと言うが、サリアさんは一体何に納得することが出来たのだろうか。
悪を滅することが目的だったのなら、ルインが改心したのを見届けたとでも言うのだろうか?
本人達に会えば分かるものか、数日後に控えた試合に緊張が高まる。
サリアさんにはきっと、俺と組んで出なかったことを後悔するような試合を見せたいものだ。
煉獄の幼女(めんどくさくなった)は、ニーナさんというエルフで、お供にアイアンメイデンを連れていた。
曰く、移動手段とかシェルターとか寝床であるらしい。
とんでもなく不気味な便利アイテムだ。
ニーナさんは幾らか妄想癖のあるものの、治癒師ではあるようだ。
めちゃめちゃに染みるものの効きの良い治療薬を売ってもらうことが出来た。
大会の期間であることを考えれば非常に有り難い出会いであり、5本も買ってしまったし、少し値切ってしまったけれど(金欠なんだ、仕方ない)。
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