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それからまたひと月。
年末に嬉しい手紙を貰ったりもしたが、大体の時間を俺はヴェロナージとペティットを行ったり来たりして過ごしていた。
俺は闘宴運営事務局として、ミスリルダストへダートラディアの移籍交渉(この間の「買う」という奴で、建前上の言い方だ)を申し入れる方法を調べたり、実際に申し込んだり。
街のことを知ろうとぶらついて酷い目に遭ったり、ミスリルダストの下請けで働いて動向を見守ったり……
俺の責任だからと自分でやるには、中々忙しいものだった。
(かと言ってこの我侭に他の人を付き合わせることも出来ずに居た)
此処までで出会った問題は
「移籍金は思ったよりも高価なものになるだろう」ということだ。
此れまでは、ミスリルダストのダートラディアさんへの扱いを「極端なものだ」と捉えてきた。
「彼らにとっては大失態で、よもや処分を待つばかりなのでは」
と思ってきた。
だからある程度の値段で「買い取る」と言えば、喜んで売ってくれるのではないかとさえ。
しかし、そうでは無かった。
ミスリルダストはダートラディアさんを「本来ある通りに」扱ったも同然で、それにダートラディアさんに対して「新しい技術」を施し「闘奴としての活躍を見込んで」いるようだった。
簡単ではなかった。
俺はダートラディアさんを金で買うのが嫌だったから、その費用をチャリティーで賄おうと思っていた。
皆でお菓子などを売ったり、ショウをして集めようと思っていた。
金で買ったのには違いないが、これならば対価は「金」ではなく「働き」になると思った。
金で買えば、その後どういった扱いを受けるとしても(君は自由だ!と言われるとしても)、やはり金を出してもらった事実は残る。
俺ならば、そのことをずっと気にしてしまうだろうと思うのだ。
金を返すには金だが、働きには働きで返す他無い、ペティットという街の皆の働きに恩義や負い目を感じたとしたら、街のために働くだけだろうから。
だから、交渉では(嫌な話だが)金額をいかに引き下げるかがポイントだった。
交渉の相手は「シェーン」という車椅子に座ったエルフで、セディさんやスージーさんみたいな武闘派な印象は受けない。事務方というか、ある程度の地位の者が出てきたということだろう。
まずはダートラディアさんに施されるという技術のことを聞く。
どうやらコルフォーティス杯で装備していたスーツの改良型のようで、中々画期的な物のようだが、まだまだ発展途上の技術であり未知数なところも多いようだ。
人体に施すのは非常にリスクがあり、「人体実験」と言っても過言では無いだろう。
だから奴隷を使うのだ。
俺は勿論そんなものがダートラディアさんに施されるのはゴメンだと思ったので、「新技術を施しても成果は上がらない、ペティットにこそダートラディアさんの成長や成果はある」と主張した。
だがミスリルダストはこの実験に大きな成果を見込んでいるばかりか、ペティットでの活動こそがダートラディアさんの成績低下の原因であるという。
意見が真っ向から対立した。
俺に、俺の主張を裏付ける証拠は何一つ無い。(大会でも負けたばかりだ)
窮した。
シェーンも「これ以上は議論の余地なし」と考え、「具体的な利益を示せ」と言う。
要は「金額(またはそれに代わるもの)を提示せよ」だ。話を進めたがっている。
俺は考えた、ミスリルダストがダートラディアさんを、新たな技術を試さぬままに見切りをつけ、かつ当の本人も納得するような方法を。
(本人が納得するかどうかは、俺には考えてもそうそう分かるものではなかったが)
しかも、その方法はミスリルダストにとって利益をもたらすものでなくてはならない。
(そうでないと乗って来ないからだ)
何一つ浮かばなかった。
「そんなものは無い」と思った。
適当な言葉で場を繋ぎながら、頭のなかは真っ暗で、諦めてしまいたかった。
ダートラディアさんが遠くなっていくような気がした、此処で諦めてしまったら、二度とペティットに戻ってこないのではないか。
ダートラディアさんを心配する皆の顔が浮かんだ。
この件を知らないが、ダートラディアさんの事を気に入っている人だって居る。
俺のせいで(書状を破り捨てたりしたせいで)、取り返しの付かないことになったら、どんな顔をして戻れば良いのか。
引き下がる訳にはいかない。
無かったら、考え方を変えるしかないのだ。
俺の提示はこうだった
「ダートラディアさんに新技術を施した後、俺と試合をさせろ。俺がダートラディアさんに勝利することで、その新技術の無価値を証明する」。
ダメ押しでサービスをしておいた。
「お望みなら、俺にもその技術を施して構わない。2人分のデータが取れてお得だよ」と。
ダートラディアさんに新技術を施すというリスクを負わせてしまう以上、俺も相応のリスクを背負って取り組むべきなのだ。
我ながら馬鹿らしい考えだが、ミスリルダスト側は興味を持ったようだ。
シェーンを通じてミスリルダストのオーナー……通称ラプラスが喋りかけてきた。
ラプラスが言うには「面白い話だ。結果次第ではタダで譲ってもいい」と言う。
だが、改めてこの提案の難しさを説明してくれた、フェアな奴だ。
新技術というものの正体は「寄生体」(魔法ウイルスともいう)だと言う。
それは宿主に寄生し、宿主が生存競争を勝ち抜く上で有利になるように発展していくもののようだ。
(例えば脚のない者に寄生させ「走りたい」と思うよう訓練すれば脚の代わりを果たすような)
しかしその成長は自律的であり、コントロールは容易ではないという。
宿主を食い尽くす可能性もゼロではないなど、不安定極まりないもの。
それに、この「寄生体」は長年データを取ってきて調整を重ねた、言わば「ダートラディアさん専用」であり、俺に適合させるのには非常にリスクが大きいと言う。
場合によっては聴覚や視覚を失うことさえあると言う。
そして最もリスクの高くなる条件と言うのが、寄生体への急激な成長の要求だ。
つまり、生命の危機に陥るなどして激しい欲求を抱けば、寄生体がそれに反応しバランスを崩し暴走する恐れがある……ということらしい。
最終的には、人体の本来の機能と取って代わることもあるのだから恐ろしいものだ。
しかも金がかかるらしい(重要)。
目眩のするようなリスクではあったが、俺の考えは変わらなかった。
どんなリスクであろうと背負い、勝利するだけだ。
それで俺は納得する。
俺の決断に納得することが出来る。
ラプラスには、何故ダートラディアさん1人に身を挺するのかと聞かれたが、エゴの為と言う他には無いのだろう。
自分が納得する為なのだ。
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