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ファルベリアを追う者達の中に俺は居た。
ロンとの「レイヨンとファルベリアが殺し合わないようにする」という約束を守る為。そして個人的な目標「ファルベリアによる此れ以上の被害が出るのを防ぐ為」。
その為には、「ファルベリアを捕縛する」のが最も効果的だからだ。
だが逃げるファルベリアを追うのは容易ではなかった。相手は素早く銃を用いる。
狭い路地に追いかけて行けば銃撃に遭い、近付いても…以前「大した腕ではない」と言っていたのは素の彼女の事で、此れはアカマガツとしての実力か。
ザラメデスさんが時間を作ってくれたお陰で、どうにか先回りをする事が出来が、そのとき既に状況は混迷を極めていた。
ファルベリアとザラメデスさんだけではない、今しがた駆け付けたらしいジュリエッタさん、ファルベリアを助けようとしているらしいベリア、巻き込まれたと見える狐の獣人、雷の術で場を荒らそうという修道女。
ファルベリアは敵も味方も無いだろうと、ベリアを撃った事から伺えた。ベリアや修道女が陣営…敵か味方かに固執してくれるならばやり易い。相手は仲間割れを起こしているも同然なのだから。
ファルベリアとザラメデスさんは既に交戦中だ、ジュリエッタさんも援護出来る位置に居る…俺はそこに邪魔が入らぬようにするまでだ。
このとき、ザラメデスさんの厚意を無駄にしてしまったようで。申し訳無い事をした。
暫くは、ほぼ俺の青写真通りに事が進んだ。負傷し不利を悟ったベリアが去り、巻き込まれたようなので安全を確保しようと声を掛けた狐の獣人も協力してくれた。(いたずらをするとは言っていたが笑顔の眩しい良い子のようだ)
修道女を追い込み、ファルベリアについた火の明かりが前方に見える。
ザラメデスさんの声が聞こえる。此方に気を回す余裕があるのだろう。
このとき、雷で自分の耳が聞こえづらくなっていた事にもっと気を配っていれば……。新たな気配に、俺は気付いていなかった。
修道女の激しい抵抗に遭い、束の間の時間を与えてしまった。俺は二人掛かりで、尚且つ援護を貰いながら一人をも押さえ込めずに地を舐めたんだ。
そして、修道女は突如としてファルベリアを狙って雷を放った。それはあの修道女の独占欲…というべきだろうか、そういったもので予測出来ず……いや、「陣営」などの「思い込み」に支配されていたのは、俺だったようだ。
その後俺は修道女を取り押さえたが、直ぐに気絶させるか殺すかしなかったのが間違いだった。抵抗に遭い、更に時間を費やした。(女の人を殴るのは実に気分が悪い)その間に恐ろしい事が起きているとも知らずに。
俺の「甘さ」。実力の過信…楽観…。
引き起こされた結果全てが俺の所為だと考える訳ではないけれども。
「まただ」と思った。
動けずに、どうして良いのかもわからなかった。狐の獣人が声を掛けてくれなかったら、その場を取り繕うことも出来なかったかもしれない。
そして逃げ出してしまった。
レーラさんと、黒兎の獣人のことは忘れられそうにない。
最近は赤禍ツの動向に注意する為に街中に居ることが多いのだが、この日は興味深い男に出会った。
クエトラツトリ・モトラティツケ…という、聞き慣れないタイプの名前をした大柄な男。非常にしっかりとした体つきで、まさに戦士といった出で立ちだ。
屈強という言葉が良く似合い、研ぎ澄まされている。そして同じ言葉が似合う二匹の大きな狼を連れていた。(それぞれ名をインティとキジャといった)
同じような美しさをダートラディアさんにも感じる事がある(筋肉加減ではディターラヴィフに近いのだ)が、同じようと言っても違いはある。その違いを上手に喩えることの出来る語彙が無いことが悔まれる。恐らくは、育った環境の違いによるものなのだが。
彼の部族、そして集落を知りたいと思った。無駄の無い美しさに惹かれた。
だが、彼がやめておけと言うからにはそれなりの理由があるのだろう。
狩人としての他に、冒険者として依頼を請ける事もある(識字に少し難があるようだったが荷運びの依頼を請けるつもりだった)ようだし共に依頼をこなしてみたいものだ。
七夕。夜になって星を眺めるまでの間に時間があったので教会に寄った。
子供達が和装で居たりと、教会も七夕モードに乗り気のようだ。
そこに女の子だから織姫だと言うべきか、格好から彦星だと言うべきか。(いや、彦星は確か牛飼いだったから刀を持っている彼女はやはり)ニンジャちゃんが訪れていて、短冊に願い事を書いていた。
エトピリカさん…というニンジャ浪人で、上昇志向で楽観的な願い事をしている風だった。
ニンジャに詳しく、きっと彼女もニンジャなのではないかと思う。
本人は違うと言っていたが、俺がニンジャだったら正体を隠す。
つまり、そういうことだ。
忍者決め打ちだ、勿論吊りはしないが、ハイニンジャソード(ニンジャブレードより長いのできっとこんな名前だろう)も持っていたし、決定的だ。
大体冗談だが、冒険を共に出来るかも知れない知り合いが出来るのは良いことだった。良い結果を得た。ありがとう七夕。
夜、広場の掲示板前。
仕事を終えて掲示板をチェックしてから帰る習慣(或いは癖)が似ているのか、それとも偶然なのか。
ティルカニアとジュリエッタさんとヴァージニアさんの三人が談笑していたので混ぜて貰う。掲示板前というのは酒場の次に情報交換や仲間探しにうってつけかも知れないな。
ティルカニアには冒険者同士で歳も近いのだし、気兼ね無く行こうと言ってみては居たが未だに口調が硬い。
しかし彼にとってそれが自然な口調で、他は全部、感情的な口調なのかも知れない。
雨女退治の誘いを辞退されてしまったが、彼の言うことも解る。俺だって誘われれば「自分が行っても仕方ない」と言うだろう。
聖職者抜きでも二人でなら何とかする自信はあったが、具体的な根拠は示さなかったし絶対ではない、普通の事だ。
単に同じ仕事をしてみたい、と言うだけでは誘えないようだ。一度袖にされたくらいでは諦めないが。
組織と個人について認識の違いがあったが、恐らくはどちらも正しいのだ。
組織で見れば、冒険者仲間の方が依頼を請けて貰い易い。教会関係者には比較的断られ易く、事情もあり迷惑になり易い…というのはあると感じる。
此方の方が、効率的と言えるだろう。広く浅い付き合いをしていれば。
リスクとリターン。
しかしこの街でなら、より個人を重視しても良かっただろう、その事についての俺のバランスは間違っていたかも知れない。
更に言うならば僅かにでも苦言を呈されたという事は、俺があの場で取った個人の認識に誤りがあった可能性がある…ということかも知れない。これは気をつけるべきだろう。
ジュリエッタさんとヴァージニアさんは仲が良いのだろうか。どちらかと言えば、ヴァージニアさんの様子からそう思う。彼女は一人舞い上がる性質でもあるまい。
ヴァージニアさんを雨女退治にも誘ってみたが、やはり難しいようだった。彼女の風の魔術は雨女と対峙するにかなり有用だろうと思っただけに残念ではあったが仕方ない。
ジュリエッタさんは赤禍ツに借りを返す、一人で、と言っていたようだが大丈夫だろうか。一人で借りを返す…か。ティルカニアだけでなく、もう一人認識を見誤っていたのかも知れない。
「教会にはご迷惑をお掛けするつもりは御座いません」「お気遣い有難う御座います」という風なやり取りはあったので安心していたのかもな…)
ティルカニアとも気の合うようなところがある…という風な話をしていたと思う…ようだ。気に留めておく事は悪い事ではないだろう。
人付き合いとはあちらを立てれば此方が立たぬもの。ままならない。
俺は良い顔しいの卑怯者だ、敏感な者には苦手に思われる事もあるだろう。
しかしそれが、リスクとリターンを考えた俺の決断なのだ。今のところは。
依頼の帰りに川で休んでいるとネージュに出会った。
ネージュは馬(コルトと言うそうだが、そのままだ)と一緒で、彼女の旅のお供だと言う。ドレスで馬に乗るなんて優雅だ。そもそもネージュは一人で旅人をやっているというのが不思議に思える程、育ちが良く見える。
少し失礼も働いてしまったことだし、今度日傘でもプレゼントしようか、キュロット姿も可愛らしいだろうけれど。
話している俺達をカモと勘違いしたらしいベリアが銃を向けてきたが、どうやらネージュと知り合い…いや、友人のようだ。
ネージュはベリアの事を大切な人だと言う、ベリアは否定したが、恐らくはネージュを巻き込まぬようにと思うが為ではないだろうか。
ネージュはベリアの行っている事を幾らかは知っている。しかし、ベリアが無関係と主張するのを振り切って大切と言う。
俺はそのとき、失礼な事ではあるがネージュを試したくなった。相手を友人だ大切だと言うのは簡単な事だが……。
結果としてネージュの意志はベリアの信念にぶち当たり、崩し去りはしなかったが強烈な振動を与え、その振動は心を揺さぶったことだろう。
そして、その振動は信念を通しネージュへと跳ね返っていたかのようだった。
そんなネージュの姿を見て、俺は居た堪れずにその場を去ってしまった。
送って帰る事など…そのときは出来そうになかった。
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