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ジュリエッタさんが婚約したと言うので、何だか此れまでのことを思い返してしまったりした。
最初はどうも綺麗な人が居るなと思っていたものだったが、一目置くようになるのは直ぐのことだった。
強い意志の光を宿し、大人びてはいても、やはり年頃相応に危ういところがあるというのもあり、気に掛けざるを得ない何かがあった。
けれど、そんな矢先にあったアカマガツ事件。
今でも思い出す、あの日のこと。
思い出すたび、自分の首から血が噴き出るような恐ろしさを感じる。
最悪の事態は免れたものの、俺は後悔していたし、自分をとても情けなく思っていた。
それこそ、エレナカレンやレーラさんに勝つことでしか、それを取り返せないと考える程には。
で、俺はそんなもんで良いのだが
当人は違う。あんな目に遭ったら、普通やめたくなる。
怪我なんてレベルじゃない「一命を取り留めた」んだ。
体を張らなきゃ明日食うものに困るようなゴロツキでもなければ
富や名声のために命も惜しくないような冒険者でも何でもないのだ。
良い家に産まれて、教養高く育って、綺麗で、家族や友人が居て。
何不自由無いじゃないか。
駆け落ちに憧れ、近くの谷が断崖絶壁に見えるような娘でもないし、そうであったとしても、夢から一瞬で覚めてしまうような目に遭ったのだから。
でも、ジュリエッタさんは止めなかった。
止めないどころか立ち向かった。
「弱い自分を変えたい」という強い気持ちを感じたし、この人に信頼されることは俺にとって大きな誇りだと思った(だから一層、エレナカレンが憎くもあった)。
けれどその反面、俺はそんなジュリエッタさんが怖かったし、同時に「そんな事をしなくったって君は幸せになれるんだから」と思っていた。
俺はエレナカレンには「ジュリエッタさんを怖がらせるな」と偉そうに言ったが、それは贔屓で、これを乗り越えなければエレナカレンに先の成長は無いのではと思っていた。
(から、その後「逃げずに戦え」と半ば矛盾したようなことを言う羽目になった)
ジュリエッタさんは逃げても良い、逃げて当然だと思っていたのに。
「知り合い」でも「友人」でもないエレナカレンと……どうしてまた関わろうとするのか。
逃げたくないから。という言葉が耳に残るばかりでなく、どんどんこの人を直視出来なくさせていった。
そして、エレナカレンに向かって。
怖がっていたのはエレナカレンではない、エレナカレンに会うことで昔の弱い自分を思い出すのが怖かったからだ。
と言い放ったそうだ。
誤解が解けて良かったね。
とかそんな話ではない、どうかしているとさえ思った。
そう言いながら、「貴方も見たでしょ私のあんなに情けない姿。貴方は本当に凄いのに私はこんなに駄目」みたいな眼でこっちを見るのだから、俺は怖くてたまらず、そのとき隣に居たコタロウに縋ったほどだった。
俺は立派な貴女を守れなかったことを、未だにこれほど悔やんでいるのに?
屋台骨をハンマーでぶっ叩かれたみたいに、俺の頭のなかはひっくり返ってしまったのだった。
そうして、俺の心の内でジュリエッタさんへの認識が二転三転している中、亜人狩りが始まったのだった。
ジェイを相手に、命惜しさに殺人鬼を野放しにしてしまった俺と。
相変わらずというか、仲間の無茶に怒りながらも自分の力不足を責める様子と。
どちらも「上手く行かなくてつらい」気持ちは近いものがあるのだろうけれど、同じもののようにはとても思えなかった。
似て非なるものを目の前にして、俺は心底、恥じ入っていた。
そのとき、ジュリエッタさんの名が新聞によって広がってしまい、亜人狩りのクランに報復として狙われる危険が出てきたというので、何処かへ身を隠すことになった。
勢い、その場に居たので、身を隠す場所を教えてもらい、街の状況を報告するなどの役を買ってでた。
不運なことだとは思ったが、同時に俺にとってはチャンスでもあった。
たった今、深く恥じ入ったことをもう挽回できる機会に恵まれたのだから。
この人を守り、ジェイと決着を付ける。
そうすることで俺は取り返せると思った、そうすることでしか取り返せないとも思った。
エレナカレンやレーラさんに勝つことでしかと、思ったように。
俺は自分でもやり過ぎだと思うほどに、船を見張ったり情報や仲間を集めたりしていた。
(セシリアがジェイに深手を負わされたという事実が、俺の気持ちを急き立てたこともあるが)
だが、遂にジェイと再会する機会に恵まれず、新たにオメガという男に情報を盗まれ逃げられてしまう。
更にはユキギエやブラッキーさんとの関係が拗れ……
とても一人で抱えられることではなかったけれど俺は、前述のとおり気を張っていて、これらを全て上手くやり遂げなければと、気負っていた。
セシリアには声を掛けてみたが、ジェイにやられてそれどころではなく
一緒にやろうと言ったミカは、対策チームというのを嫌って
ライクルスには、俺自身抱えているものが多く対策チームのリーダーを務めてもらっている以上、仕事を増やす訳にも行かなかった。
あれよあれよと言う間に時が過ぎて、結局何一つ上手く行かなかったように思う。
オメガにも、ユキギエにも、「ただ俺の都合の良い未来を」押し付けようとして、力に頼った。
力が無いからいけないのだと思った。
勝てば、現実としてその未来が手に入るのだから。
力のある奴は頼られる、頼られることは肯定されること、肯定されることは、正義だ。
その結果、ユキギエに殺されかけるまでになり、アーシャには見捨てられてしまった。
アーシャ。ジュリエッタさんからアタラクシアという名前を貰った、俺の召喚獣。
この名前を貰ったとき、俺は自分でも驚くほどすんなりと、それを受け入れることが出来たし、とても気に入った。
幸福を「為す」こと、それには俺は大変な価値を感じていたからだろう。
にも関わらず、それに見放されるというのは。
だけど、俺はこういった方法しか知らなかった。
以前もこうして失敗をしたのに、そのときより強くなっている筈だから、今度こそは上手くいくとでも思ったのか。
そうして、特別成果を上げるでもないうち、ジュリエッタさんが復帰した。
この期間、俺はかつてないくらい手紙をやり取りしたが
思えば、そんな状況にあっても俺がこの事件を投げ出さなかったのはこの手紙のお陰。
単に心配をかけまいという見栄だったのかも知れない。
(もしかすると、お互い様だったような気もする、聖水が特に怪しい)
ずっと、半ば嘘を吐き続けたような手紙のやり取りだったけれど、あの人の時間をこれほど頂くことが出来たとても貴重な期間だった。
が……ジュリエッタさんが戦線復帰するということは
俺は再び、例の恐怖と向き合わなければいけないということだった。
とても恐ろしいことだった。
今度はファルベリアのときより事態は悪い、ヤバさだけで言えば向こうは事故だったようなものだ。
そして俺は以前よりもこの人の危うさを知ってしまっている……。
だが、再び俺の前に姿を見せたジュリエッタさんは、以前とは違っていた。
その姿には覚悟があった。
「甘えて頼ってごめんなさい」と口にした、自分の弱さと向き合い、それを乗り越えようとした姿だ。
船上での鬼ごっこという体ではあったが、その戦いぶりは今までのジュリエッタさんでは無かった。
討伐チームに参加すると聞いたときは本当に狼狽えてしまったけれど、負けられないという気持ちもあったし、覚悟に応えたいという気持ちもあった。
何より俺も、これほどに強く気高く煌めいていたいと思った。
共に恐怖に打ち克つ誓いを交わして、クランに挑んだ。
俺が白い外套を纏うのは、それが染まりやすいからだ。
何者にも染まりやすいその色を保つことこそ、気高さの象徴だと思うからだ。
戦いの中で俺は一歩も退かず、ただ前へ向かった。
側で援護することだけが守ることではない、ひたすら真っ直ぐ目標を達成することが、討伐チームリーダーの片割れである俺のやり方だと思ったからだ。
そして戦いの終わり、ライダーの強大な魔が多くの命を脅かしたとき。
ジュリエッタさんは当然のようにその生命を賭けた。
どうしてそのような事が出来るのだろう。
俺はこのとき、本当に呆気にとられたものだ。
つい最近に「死」を自覚しながら、目に見えるほどの「死」に向かって、人はあんなにも毅然とした態度で居られるものなのか?
怖気付いて当然というか、怖気付くべきなのだ。
俺は「判断をして」自分がやると言った。
ジェイとのこと、リーダーであること、ジュリエッタさんを含めた皆とのこと。
それらの損得を勘定して、かつ見栄を加えて「判断」したのだ。
けれどこの人はそんなことしなくても良いのに。
助かっても誰も文句は言わないし、やっぱり恵まれた境遇に居るのだから幸せにもなれる。
そしてあまつさえ、ああ、あまつさえ!
自分とスピアーが助かる道も諦めなかった。
俺はただ健気なだけの行為であれば、これほどの感銘を受けることは無かっただろう。
それは諦めているからだ。
俺の「判断」も、覚悟の上ではあっただろうが、それに近かったのかも知れない。
この人はまた、俺の上を行っていたんだ。
亜人狩り終結の功を労う船上パーティで、このときの心境を聞いたが、やはりというか
想像以上にとんでもないことだった。
死ぬよりも怖いことがある(きっと、行動をしなかったことで自分以外のものを失うことだろうか)。
後ろに居てくれたから。
一体全体、どうしてこんな風に思えるのだろう。
何を失って来たのだろう。
何を得てきたのだろう。
どんな人間になりたいと思っているのだろう。
どうしてかは知らないけれど、この人は一つの理想を、真実を追い求めていける人なのだろう。
だからこんなにも眩しく見えてしまう。
俺は一周回って、可笑しくなって、笑ってしまっていた。
心からほっとしていたからだ。
生きていてくれて良かったと安心したから、笑ってしまったし、泣いてしまった。
そして歌を聞かせてくれたこと、一緒に踊ってくれたこと。
夢のような時間だった。
でも現実、夢のままでは終わらないもので。
その後、お互い少し分かったかなという頃、こういう頃が一番危ないのは戦闘なんかでも同じだ。
酒場でジュリエッタさんの本音を聞いたとき、俺は本音を言わなかった。
戦場から遠ざけられ協力を拒まれかけて傷ついたというのに、
俺は相手の実力を見下し、差別して、大人しくしておけば良いと思っている。
ということにしたのだ。
そういう気持ちが無かった訳ではないが(俺は大抵女の子に対してはそうだ)、それだけが理由であるかのように誇張し、苛立たせて話を変えようとした。
このとき、俺はジュリエッタさんの事を心底認めていたのだけれど「だけど…」という気持ちも大きかった。
冒険者とは立場が違う、認めてはいるのに、何故か違うところにいる。
俺自身にも何故燻っているのかは分からなかったが、そう感じていることさえ打ち明けなかった。
(そうしていればよかったのに)
亜人狩りのようなことで切羽詰まっていなければ本心を口にできない、己の意気地の無さが招いたことだった。
そのときのことも半ば有耶無耶になりと言うか、ひょっとすると、深く言わずともお互いのミスを慮り合った後。
砂浜で話したとき、僕はジュリエッタさんのラファティを見る瞳から「巣立ちたい」という気持ちを読み取った。
「何処から?」という問には答えられなかったものの、エレナカレンに不思議と惹かれたりしたこともあり
自由を手に入れたいと願っているのかも知れないとだけしか、俺には分からなかった。
(家?教会?リール商会?はたまた「ペティット」……?)
けれど俺は頭の硬いもので、そうは感じていても、やはり彼女は彼女の立場の中で自由を得て、力を発揮すべきだと考えていた。
そして、ガーデンパーティの日。
俺はジュリエッタさんが婚約したと聞いて、とてもショックを受けたことを覚えている。
そしてそのとき、俺は自分が何故燻っていたのか気付いた。
(その気付き方さえも、俺の頭の硬さが齎したものだったのは笑ってしまうが……)
俺は「もうこの人と一緒に冒険することは出来ないのか」と感じていたのだった。
共に本当のことを追い求めること、この人の煌めきを間近にすることも出来ないのかと思うと、本当に落ち込んだ。
(実際、世帯があるからと言って冒険をしていけない訳ではないが、俺は気を使うタイプだ)
俺はジュリエッタさんに「冒険者になって欲しかったし」「冒険者になって欲しくなかった」
そう同時に思っていたから、自分でも訳が分からなくなっていたことに、このとき気がついたのだった。
俺が真に信頼する者と言うのは、どんなときも諦めず真実に向かっていける者だ。
俺が命を預けるのは、力が強い者ではない。
非常に残念には思ったけれど、同時に、それでもこの人は変わらないだろうという妙な確信があった。
それは思い込みなのかも知れないけれど、「冒険者かどうか」に拘ることは意味が無いことだと気付かせてくれた。
この人なら何処だろうと、自分の理想を目指すだろう。
今居る場所を飛び立って、次の場所を共に目指すことの出来る相手が見つかったのは、とても素晴らしいことだ。
理想のパーティメンバーの新たな旅路を心から応援する。
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