[PR]
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
その次の日には密林に来ていた。
ダートラディアさんと親しい仲である亡霊騎士が此処に居ると、カスパール家の人に教えてもらったからだ。
この亡霊騎士は生前レスタンクールの家(俺が破いた書状の家だ)の人だから、そのことを怒られるかと思ったがそうでもなかった。
失礼は失礼だったが、この人がそこまでそれを気にしていなかったのと、予備があったからだろう。
この亡霊騎士とダートラディアさんが手合わせしているのは見たこともあるし、ユキギエとこの密林で戦ったときには召喚されていたような気もするが、こうして話をするのは初めてだ。
開口一番、という訳ではないにせよ
「お前ではダートラディアさんの心に火は付けられない」
と言われた。
大体自分でも分かっていたことなので、此れを機会に「何故そう思うのか」を含め心理上の傾向を聞かせてもらった。
それがダートラディアさんの行動を読むに当たって、良い材料になると思えたからだ。
この亡霊騎士が言うには、ダートラディアさんの特徴としてその感覚の強さを挙げた。
レインさんも言っていたことと合致するし、誰もが思うことはそのまま真実であるということなのだろう。
そして、心理上の癖として「半歩遅れる」ことを挙げた。
亡霊騎士が言うにはダートラディアさんが何かを測っているとき、そうなる事があると言う。
コルフォーティス杯でも(見てたのか)、フランセットとの戦いでそういったシーンがあったと。
剣を捌くのには慣れているだとか、多角的な攻撃や飛び道具が苦手だろうことなども並べて挙げていた。
その後は、実際に拳を交えて教えてもらう事ができた。
亡霊騎士はダートラディアさんの動きや特徴を真似ていたようで、良いトレーニングになったと言える。
この件に関する思い入れがビリビリと伝わってくるものもあった、自由に動けぬ身を不自由に思うのだろう。
俺はレインさんから教わったカウンター返しのコツを掴む練習も同時に行った。
こういうのは呼吸が大事だからだ、相手に呼吸を合わせることが成功のポイントだろう。
暫く打ち合い、すっかり日が暮れてしまった頃に別れた。
ダートラディアさんのことを生きていれば良いと言うが、何か根本がすっかり変わってしまうのには我慢が出来ないという表現以上のことを感じるのだろう。
負けられることではない。
寄生体を体に宿す準備を整える合間、合間、俺はペティットに戻って来ていた。
順調に体に馴染ませる為には、ヴェロナージで大人しくして検査を受けているのが良いとは分かっているのだが、俺にはやるべき事があった。
ダートラディアさんとの試合の、対策を立てることだ。
絶対に負けられない試合だから全力を尽くしたい、俺は思い付く限り、ダートラディアさんと戦ったことのある人に手紙を送った。
修練会でダートラディアさんと手合わせをしていたレインさんとグリンさん。
コルフォーティス杯でダートラディアさんを破ったフランセット。
ダートラディアさんと親しい仲であり、何度も手合わせをしている亡霊騎士。
この日は、レインさんに話を聞くことが出来た。
俺が闘技場を眺め、これまでのダートラディアさんの戦いを思い出していた時、
レインさんは最近購入したという使い魔を連れて現れた。
レインさんはどうやら、別口(バレットさん絡みで)からダートラディアさんの件に絡む事になったらしい。
ビジネスだと言っていた。
しかしバレットさん達がどのような方針でこの件に当たるのかは知らないと言っていた。
ビジネスと言うのに方針を知らないということもないだろう、俺に対して秘密にしているのだろうか?
或いは、単に軽く請け負ったのかも知れない。
(話をしたエレナカレンとは親しいと言うし、この件は前にも言っていた通り気になっているとは言っていた)
何にせよ、その一環という訳では無いにせよ快く応じてくれたのは有難いことだ。
目的は同じだからお互いに頑張ろうと言ってくれた。
レインさんが言うには、ダートラディアさんは「受け」の技術が上手いと言う。
拳法で言うところの借頸らしいが、とにかく此方が攻撃しても上手く受け流すことが出来るということだ。
戦闘に関する知覚の高さが、それをより引き立てているという。
そして此方の攻撃を受け流しながらのカウンター気味の攻撃が最も特徴だということだ。
それに対してレインさんが教えてくれたのは
・乱打(カウンターをする隙を作らせない)
・カウンター外し(カウンターは狙ってやるもの、その狙いを外す)
・カウンター返し(カウンターをカウンターする)
の3つだ。
その3つ目、「カウンター返し」これはレインさん曰く高等技術だそうだが、これを簡単に行う方法があるという。
それが「相打ち」だそうだ。
自分だけが相手のカウンターを避けつつ、ではなく、相打ち覚悟で臨めば高い技術を持たずとも何とかなる可能性が高いという。
相手の受けの上手さを考慮し、受けられようが決まろうが気にしないくらいの気持ちで、乱打気味に戦い相手に暇を与えないこと。
カウンターを警戒し、いざと言う時の相打ち覚悟の一撃を常に考えておくこと。
こういったことが主に有効そうだと感じることが出来た。
まだまだ不十分だが、何とか間に合わせるしかない。
それからまたひと月。
年末に嬉しい手紙を貰ったりもしたが、大体の時間を俺はヴェロナージとペティットを行ったり来たりして過ごしていた。
俺は闘宴運営事務局として、ミスリルダストへダートラディアの移籍交渉(この間の「買う」という奴で、建前上の言い方だ)を申し入れる方法を調べたり、実際に申し込んだり。
街のことを知ろうとぶらついて酷い目に遭ったり、ミスリルダストの下請けで働いて動向を見守ったり……
俺の責任だからと自分でやるには、中々忙しいものだった。
(かと言ってこの我侭に他の人を付き合わせることも出来ずに居た)
此処までで出会った問題は
「移籍金は思ったよりも高価なものになるだろう」ということだ。
此れまでは、ミスリルダストのダートラディアさんへの扱いを「極端なものだ」と捉えてきた。
「彼らにとっては大失態で、よもや処分を待つばかりなのでは」
と思ってきた。
だからある程度の値段で「買い取る」と言えば、喜んで売ってくれるのではないかとさえ。
しかし、そうでは無かった。
ミスリルダストはダートラディアさんを「本来ある通りに」扱ったも同然で、それにダートラディアさんに対して「新しい技術」を施し「闘奴としての活躍を見込んで」いるようだった。
簡単ではなかった。
俺はダートラディアさんを金で買うのが嫌だったから、その費用をチャリティーで賄おうと思っていた。
皆でお菓子などを売ったり、ショウをして集めようと思っていた。
金で買ったのには違いないが、これならば対価は「金」ではなく「働き」になると思った。
金で買えば、その後どういった扱いを受けるとしても(君は自由だ!と言われるとしても)、やはり金を出してもらった事実は残る。
俺ならば、そのことをずっと気にしてしまうだろうと思うのだ。
金を返すには金だが、働きには働きで返す他無い、ペティットという街の皆の働きに恩義や負い目を感じたとしたら、街のために働くだけだろうから。
だから、交渉では(嫌な話だが)金額をいかに引き下げるかがポイントだった。
交渉の相手は「シェーン」という車椅子に座ったエルフで、セディさんやスージーさんみたいな武闘派な印象は受けない。事務方というか、ある程度の地位の者が出てきたということだろう。
まずはダートラディアさんに施されるという技術のことを聞く。
どうやらコルフォーティス杯で装備していたスーツの改良型のようで、中々画期的な物のようだが、まだまだ発展途上の技術であり未知数なところも多いようだ。
人体に施すのは非常にリスクがあり、「人体実験」と言っても過言では無いだろう。
だから奴隷を使うのだ。
俺は勿論そんなものがダートラディアさんに施されるのはゴメンだと思ったので、「新技術を施しても成果は上がらない、ペティットにこそダートラディアさんの成長や成果はある」と主張した。
だがミスリルダストはこの実験に大きな成果を見込んでいるばかりか、ペティットでの活動こそがダートラディアさんの成績低下の原因であるという。
意見が真っ向から対立した。
俺に、俺の主張を裏付ける証拠は何一つ無い。(大会でも負けたばかりだ)
窮した。
シェーンも「これ以上は議論の余地なし」と考え、「具体的な利益を示せ」と言う。
要は「金額(またはそれに代わるもの)を提示せよ」だ。話を進めたがっている。
俺は考えた、ミスリルダストがダートラディアさんを、新たな技術を試さぬままに見切りをつけ、かつ当の本人も納得するような方法を。
(本人が納得するかどうかは、俺には考えてもそうそう分かるものではなかったが)
しかも、その方法はミスリルダストにとって利益をもたらすものでなくてはならない。
(そうでないと乗って来ないからだ)
何一つ浮かばなかった。
「そんなものは無い」と思った。
適当な言葉で場を繋ぎながら、頭のなかは真っ暗で、諦めてしまいたかった。
ダートラディアさんが遠くなっていくような気がした、此処で諦めてしまったら、二度とペティットに戻ってこないのではないか。
ダートラディアさんを心配する皆の顔が浮かんだ。
この件を知らないが、ダートラディアさんの事を気に入っている人だって居る。
俺のせいで(書状を破り捨てたりしたせいで)、取り返しの付かないことになったら、どんな顔をして戻れば良いのか。
引き下がる訳にはいかない。
無かったら、考え方を変えるしかないのだ。
俺の提示はこうだった
「ダートラディアさんに新技術を施した後、俺と試合をさせろ。俺がダートラディアさんに勝利することで、その新技術の無価値を証明する」。
ダメ押しでサービスをしておいた。
「お望みなら、俺にもその技術を施して構わない。2人分のデータが取れてお得だよ」と。
ダートラディアさんに新技術を施すというリスクを負わせてしまう以上、俺も相応のリスクを背負って取り組むべきなのだ。
我ながら馬鹿らしい考えだが、ミスリルダスト側は興味を持ったようだ。
シェーンを通じてミスリルダストのオーナー……通称ラプラスが喋りかけてきた。
ラプラスが言うには「面白い話だ。結果次第ではタダで譲ってもいい」と言う。
だが、改めてこの提案の難しさを説明してくれた、フェアな奴だ。
新技術というものの正体は「寄生体」(魔法ウイルスともいう)だと言う。
それは宿主に寄生し、宿主が生存競争を勝ち抜く上で有利になるように発展していくもののようだ。
(例えば脚のない者に寄生させ「走りたい」と思うよう訓練すれば脚の代わりを果たすような)
しかしその成長は自律的であり、コントロールは容易ではないという。
宿主を食い尽くす可能性もゼロではないなど、不安定極まりないもの。
それに、この「寄生体」は長年データを取ってきて調整を重ねた、言わば「ダートラディアさん専用」であり、俺に適合させるのには非常にリスクが大きいと言う。
場合によっては聴覚や視覚を失うことさえあると言う。
そして最もリスクの高くなる条件と言うのが、寄生体への急激な成長の要求だ。
つまり、生命の危機に陥るなどして激しい欲求を抱けば、寄生体がそれに反応しバランスを崩し暴走する恐れがある……ということらしい。
最終的には、人体の本来の機能と取って代わることもあるのだから恐ろしいものだ。
しかも金がかかるらしい(重要)。
目眩のするようなリスクではあったが、俺の考えは変わらなかった。
どんなリスクであろうと背負い、勝利するだけだ。
それで俺は納得する。
俺の決断に納得することが出来る。
ラプラスには、何故ダートラディアさん1人に身を挺するのかと聞かれたが、エゴの為と言う他には無いのだろう。
自分が納得する為なのだ。
半月ほど時は流れて。
僕自身もゴタゴタしていたのもあり、ダートラディアさんの行方は中々掴めなかった。
港の倉庫街に監禁されているということがハッキリしたのも、そう前のことではなかったが、ダートラディアさんがミスリルダストの所有物であることがハッキリした今、手を打ちあぐねていたというのが実際のところだ。
ミスリルダストがダートラディアさんを連れてペティットを発とうとしていることを知ったのも、この日になってからだった。
相変わらず手際の悪いことだ、俺は。
発着場で闇雲にミスリルダストの便を探したところ、幸運にも出発の準備をするセディさん(ミスリルダストの方、闘技大会でもお世話になった)を見つけることが出来た。
俺はなんとかダートラディアさんに会えないものかと、賞金を渡したいと言って食い下がったが、それはもう突っぱねられたものだ。
「権限がない」「権利がない」「オーナーの決定だから」
俺が無理を言って命令に背かせたとすれば、それはセディさんの死を意味するという。
絶対服従……ペティットに居たせいか、こんな単語は忘れてしまっていたが、それそのものがエプロンドレスを着て立っていた。
セディさんはそれこそ、機械のようだった。
しかし話が長引いたせいか話を引き継いだ青年は、セディさんに比べればまだ幾らか人間味があったが。
俺は交渉の為のカードというものは殆ど持っていなかったので、この時とっくに弾切れだった。
ただ出発の時間を引き伸ばし、そのときを待つことしか出来ないで。
ダートラディアさんを「買う」という最低な選択も、「今この場では無理だ」と言われてしまえば、何も言える事が無かった。
そのとき、燃え上がるような色をした大型の鳥(というか猛禽類)が飛んできた。
俺は全く心当たりが無かったのだが、俺への届け物を運んできてくれたらしい。
差出人は「カスパール」……要はバレットさんかその近辺からのものだ。
中身は「レスタンクール辺境伯」(まあまあ偉い人、という意味だ)からの書状だった。
「私はダートラディアさんを買い取るのに協力します」という内容の。
つまり俺は後ろ盾が出来た訳だ、辺境伯様の。
知り合いなのかなんだか知らないが、バレットさんがダッシュで取って来てくれた物なのだろう。
俺は、この書状を見せ、この場でオーナーと話が出来るか試した。
しかし無理だったので破いて捨てた。(オーナーと繋がったとしても、その時点で破り捨てたが)
俺は終わりにしたかった。
ダートラディアさんが誰かのものであるということを。
例えダートラディアさんがそれを受け入れていて、「そういうのもアリじゃね」って言われたとしても。
独り善がりだ。
全くもって子供のやることだ。
こういうことをしてしまったからには、覚悟を決めなければならない。
けれどそのとき、事件は起こった。
何者かがこの発着場を襲撃したのだ。強力な風の魔法で、害す意志を持って。
そいつは……遠目には緑色って感じで、女の人のように見えた。
飛竜達を暴れさせて、この辺りを無茶苦茶にしてやろうとしていたようだ。
セディさんやスージーさん(この人もミスリルダストのメイドさん)の活躍で、その魔女を撃退することは出来たし、何とかその場も収めることが出来たのだが……犯人の詳細は分からず仕舞いだった。
恐らくは実力でダートラディアさんをゲットしに来た、街の誰かなのだろうとは思うのだが。
闘宴コルフォーティス杯は熱狂の内に幕を閉じた(と自分で言いながら)のだが、途中からダートラディアさんが行方不明になっていた。
大会からこっそり抜け出したのだったらともかく、「お叱りを受けなければ」と言い残した後はミスリルダストの関係者も「そんな人は居ません」と言うし、ダートラディアのお店は閉まったままだし。
怪我でペティットを離れることは以前にもあったが、それならそうと分かる筈で……
これは行方不明と言う他無かった。
ダートラディアさんはミスリルダストという企業の名前を背負って出場していたので、悪い評判が本国に届かないように……という考えはあるが。
賞金の授与が未だだったので、ダートラディアさんの家を見に行き、その不在を確認して帰る途中、広場でレインさんとコールさんに出会ったのだった。
コールさんは仕事に向かう途中だったのか、挨拶程度に話をして別れた。
大会は仕事の都合で観戦出来なかったことを詫びてくれた、次に何かあったら観に来てくれると言う、こういうことを言ってもらえるだけでも嬉しいものだ。
レインさんとはダートラディアさんの話をした、レインさんもダートラディアのことは不思議に思うということで、少し探してみてくれると言うことだった。
人の目は多ければ多いほうが良い、実に助かることだ。
友人だし、行き先も気になると言ってくれた、心強いことだ。
もしかすると、大会の記録を抹消したいと思っているかも知れない。
資料の管理に気をつけようと思う。
04 | 2025/05 | 06 |
S | M | T | W | T | F | S |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | 2 | 3 | ||||
4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 |
11 | 12 | 13 | 14 | 15 | 16 | 17 |
18 | 19 | 20 | 21 | 22 | 23 | 24 |
25 | 26 | 27 | 28 | 29 | 30 | 31 |